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神社専門誌編集者 杜出版株式会社 代表取締役 青木 康神社専門誌編集者 杜出版株式会社 代表取締役 青木 康

神社のもつ価値を伝え、次の世代に引き継ぐ。
地域の絆を守るために、
私たちにできることです

神社のアイデンティティを知れば、
自分のまちがもっと好きになるはず。
神社専門誌編集者
杜出版株式会社
代表取締役
青木 康

神社巡りがブームと言われて久しい一方で、神社がもつ普遍の価値や役割まで知ろうという人はそう多くない。本来神社は、日本人が大切にすべき文化や伝統を宿す、地域の象徴たる「鎮守の杜」。そんな成り立ちへの造詣を深め、神社に特化した総合プロデュースを行う編集者が青木氏だ。神社のもつそれぞれの表情に真摯に向き合ってきた仕事。その一つひとつに、大切な想いが宿っている。


仕事のことを熱く語る青木氏の言葉からは、「神社への愛」があふれ出ている

全国の神社から、参拝者向けのパンフレットなど販促物の制作依頼を数多く受けてきた青木氏。そのなかに、東京都千代田区にある神田明神とコラボして、神社界初のフリーペーパーとして発刊した『Mind』がある。今も年1回定期的に発行され、通算13号を数える同誌が地域に果たした役割は小さくないようだ。

 まちの人が地元の神社のことを知り、一方の神社もまちの人たちとのつながりを深める。雑誌づくりが、まちと神社の新たな関係性を創り出す一助になりました。

 神田明神があるエリアはオフィス街ということもあり、同誌は当初、ビジネスマン向けに神社の魅力を伝えるというコンセプトでスタートしたんです。ただ、一定の評価は得たものの、ビジネスマンへの浸透という意味ではあまり成果が感じられませんでした。神社が発信するビジネス雑誌としての意義がそれほど見出せず、ムーブメントが思ったように生まれなかったんです。
そこで、第4号からコンセプトを変えることにしました。神社はそのまちに住んでいる人、働いている人たちとの相互関係を土台として成り立っていることを踏まえ、人の動線を生み出す雑誌にしようと考えたんです。神田明神を接点にしながら、まちの中の動線をつくることを念頭に、神田明神のある氏子エリアの人たちの役に立つ、「氏子町活性化マガジン」という雑誌へとリニューアルしました。

 特集記事として、神保町や淡路町などのまちの魅力や神田明神との接点を紹介。取材の中でまちの人が神田明神をより深く知ることになり、神社のほうも記事づくりを通して地元の人の声に触れていくことになりました。それまで神田明神の一方通行だった情報発信に、双方向での意思疎通が生まれることになったのです。その結果、神社とまちとのつながりが深まり、「神田明神を訪れた人がまち巡りも楽しむ」という、新たな動線をつくり出すことに貢献できました。
同誌はその後も時代の変遷によって柔軟にコンセプトを変えていき、2万部からスタートした発行部数は今、5万部まで増えています。

全国の神社から、参拝者向けのパンフレットなど販促物の制作依頼を数多く受けてきた青木氏。そのなかに、東京都千代田区にある神田明神とコラボして、神社界初のフリーペーパーとして発刊した『Mind』がある。今も年1回定期的に発行され、通算13号を数える同誌が地域に果たした役割は小さくないようだ。
青木氏が手がける『Mind』は時代の変遷に合わせて柔軟にコンセプトを変えながら、神社の魅力を発信している
培ってきたワザで神社が伝えたい内容を「翻訳」する

神社向けの販促物という希少なジャンルゆえ、その制作の過程では、ほかの編集者にはないノウハウが必要になる場面が少なくない。神社のもつ普遍の価値を、いかに一般の読者に伝えるか。そこには、長く神社の広報に携わってきた青木氏ならではの技術が息づいている。

 神道は教義論争や説教的な布教ということをせず、神社も粛々とその存在を次世代に継承することを美徳としています。そのため神社は対外的なPRがあまり必要なく、一般の方が求めている情報とはどんなものなのかを正確に把握できていない面がありました。情報発信する際にも文章の表現が難しいものになることが多く、一般の方には理解しにくく、なかなか読んでもらえないという状況にも陥りがちだったのです。

 そうした状況を変えるために必要なのが、編集の際に神社と読者の間に入り、神社が伝えたい内容を読者の知りたい情報に変換する技術です。つまり神社が発信したい情報と、一般の方が知りたい情報のギャップを埋めていくための「翻訳」作業が求められるのです。

 神社の情報を読者側にどう噛み砕いて伝えるかが大事なのですが、一方であまり噛み砕き過ぎると、神社のもつ格式が落ちてしまい、本来の姿が伝わりません。その中で、神社と読者の両方にとってもっとも腑に落ちるカタチで翻訳し、表現できる。それが当社の技術であり、培ってきたワザの部分なのです。

神社向けの販促物という希少なジャンルゆえ、その制作の過程では、ほかの編集者にはないノウハウが必要になる場面が少なくない。神社のもつ普遍の価値を、いかに一般の読者に伝えるか。そこには、長く神社の広報に携わってきた青木氏ならではの技術が息づいている。
神社が発信したい情報をどう噛み砕いて読者側に伝えるかが大事に

たとえば、「古事記を噛み砕いて平たい文章に変換し、物語にして読者に伝えるイメージ」と青木氏は説明する。神社の神様とはどういう存在か、神社の信仰はどういうものか。そうした神社の魅力を伝えていく際に、欠かせないものがあると青木氏は言う。

 ひとつは、神社のアイデンティティを知ることです。私はいろんな仕事を通じて、古代史についても勉強してきました。その中で、神社の起源や発展性を見ていくとおもしろい。周辺のまちの歴史やかかわりの中で、神社の立ち位置を理解することはとても興味深いんです。

 神社はその場所にあるからこそ意味があるわけで、人々が何世代変わろうと、何百年もそこにあり続けています。そうすると、神社がまちの歴史そのものになり、そこに神社としてのアイデンティティが生まれます。

 たとえば、いい神社はまち全体と調和が取れていて、神社がまちの顔になっています。神社ごとに違うアイデンティティがあり、それがまちのカラーと結びついているんですね。たとえば先進的なエリアはその神社も先進的で、古風なエリアは神社自体も古いように。

 だから、まちが変われば神社も変わる。それが神社のアイデンティティであり、それを知るには、まちの歴史も知らなければならないんです。神社の起源や歴史を知るとともに、まちの成り立ちを知る。そうすれば自分のまちがもっと好きになるはず。いつもまち歩きをしながら、そんな想いを深めていますね。

たとえば、「古事記を噛み砕いて平たい文章に変換し、物語にして読者に伝えるイメージ」と青木氏は説明する。神社の神様とはどういう存在か、神社の信仰はどういうものか。そうした神社の魅力を伝えていく際に、欠かせないものがあると青木氏は言う。
神社とは地域の絆を守ろうとする想いを育む神聖な場所
神社のアイデンティティを知るには、まちの歴史も知らなければならない

青木氏は前職の出版社で神社や寺院のPR誌の編集に携わり、多くの神社と出会ったことで、その魅力に引き込まれていったという。自身の中で神社への想いが決定的になったきっかけは2011年の東日本大震災。その1年後、杜出版を設立することになった。

 震災によって、東北で多くの神社が倒壊し、それに伴って地域の絆や歴史も失われてしまいました。郷土の歴史や大切な思い出を失ってしまった被災地の姿を見て、地域の象徴である神社というものを大切にしていきたいという想いがいっそう大きくなったのです。

 震災の折に絆という言葉が頻繁に使われましたが、その土地に暮らす人たちの絆をつむぐものは、やっぱり神社なんです。地域の誰もが知る、思い出が詰まった場所は学校や神社でしょう。ただ、学校は廃校になるところもある。何百年もそのままの姿で地域に残るものは、やはり神社しかないんです。

 そのまちの歴史を語るうえで、神社は欠かせない存在です。たとえば地域のお祭りでは、何百年も昔の人が感じた高揚感を、現代社会の私たちも同じように感じることができます。そうした「生きたタイムカプセル」になるのが神社であり、地域の人たちの絆を守るには、神社のもつ価値を広く伝え、ともに理解し合うことが必要です。神社は、そうした想いを育む場所として、次の世代に大事に引き継いでいかなくてはならないと強く思うのです。

青木氏は前職の出版社で神社や寺院のPR誌の編集に携わり、多くの神社と出会ったことで、その魅力に引き込まれていったという。自身の中で神社への想いが決定的になったきっかけは2011年の東日本大震災。その1年後、杜出版を設立することになった。

パワースポットといった言葉が独り歩きする一方で、神社がもつ普遍的な価値への理解の浸透がまだまだ足りないと言う青木氏。神社のプロデュースのほかに、参拝者を育てるためのものづくりにも力を入れたいと前を見据えている。

 地域の神社がもつ成り立ちや伝統をしっかりと掘り起こし、それを一般の方に上手に噛み砕いて伝えていくことが大切だと考えています。神社を身近に感じてもらう一方で、神社のもつ価値を正しく理解してもらえるように努めたい。そのために、神社それぞれのアイデンティティをわかりやすく伝えるお手伝いをしていきたいですね。

 神社との関係性がいいまちは、駅を降りたときにいい雰囲気があるんですよ。いい宮司さんのいる神社は、境内に入るとわかります。まちも同じで、いい神社があるまちは、やっぱりいいまち。そんな神社の姿をたくさん伝えられるといいですね。

昔の人が感じた高揚感を同じように味わえる。
神社は、「生きたタイムカプセル」です。

青木 康(あおき やすし)
青木 康(あおき やすし)
青木 康(あおき やすし)
プロフィール

1980年、埼玉県生まれ。学習院大学法学部政治学科を卒業後、株式会社近代出版社に入社。企画制作室長、編集長を歴任し、100社以上の神社広報を担当。神社界初のフリーペーパーを発行するなどその道のプロフェッショナルとして実績を積む。2012年に神社広報専門出版社として杜出版株式会社を設立、代表取締役に就任。靖國神社などの全国有数の神社をはじめ、全国200以上の神社と取引があり、さまざまな広報物の企画・制作・出版を通じて神社広報のトータルプロデュースを展開している。著書に、『日本の神様』『伊勢神宮のすべて』(宝島社)など。

事業所概要

社名 杜出版株式会社
住所 〒151-0053 東京都渋谷区代々木2丁目27番16号 ハイシティ代々木402
URL http://www.mori-book.com/