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- クリエイティブスタジオ SAMURAI(株式会社サムライ) クリエイティブディレクター/アートディレクター 佐藤 可士和
アートなのかは他人が決めること。
僕はクリエイティブの力で
課題解決をしているんです。
ものごとの本質をつかむ
それが唯一かつ最短の道
クリエイティブスタジオ SAMURAI(株式会社サムライ)
クリエイティブディレクター/アートディレクター
佐藤 可士和
日本を代表するクリエイティブディレクター、佐藤可士和氏。世界の主要都市に掲げられたユニクロのロゴの生みの親であり、外国製品に押されて存亡の危機にあった愛媛県の地場産業・今治タオルをブランドプロデューサーとして再生させた立役者でもある。芸術家でも職人でもない、まさにクリエイティブディレクターとしか呼べない独自の地位を築いた、その仕事の本質を探る。
多彩な活躍が評価され、佐藤氏は2016年・2017年に文化庁の「文化交流使」に指名された。海外における日本文化への理解を深めるため、各分野で活躍する文化人を世界に派遣するもの。伝統的な芸術・芸能を極めた人物が多いなか、クリエイティブディレクターとして初めて佐藤氏が指名された。
大変光栄なことですが、僕自身は決して芸術家ではない。では何者かと問われたら、「クリエイター」だと答えます。僕の仕事は、クリエイティブの力を使ってクライアントの課題を解決すること。いってみれば、医者が目の前の患者さんの症状にあわせて適切な薬を処方していくようなものです。
医者の関心事は患者さんの病気を治すこと。医者が「この薬の調合は芸術的だ」などといっていたらおかしいですよね(笑)。患者さんが一人ひとり違うように、クライアントの事情もさまざまです。当然、解決しなければならない課題もプロジェクトごとに異なります。
僕のつくりだしたものがアートなのかどうか。それは他人が決めることでしょう。僕のクリエイティブを見た人々が「すぐれたアートだ」と評価してくれるのであれば、それはうれしいことです。でもその前に、クリエイティブによって目の前に存在していた課題を解決し、クライアントに喜んでもらえることがまず第一です。そしてクリエイティブが世の中で大きな話題になれば、なおうれしいですね。商品の売上が一気に伸びたり、街角でみんながその商品を使っている様子を見かけたり。自分の仕事を通じて喜んでくれる人が増えるのは、この上ない幸せです。想定していた以上の影響を、クリエイティブの力で実現できた。それが僕にとって「よい仕事」の定義です。
そうした「よい仕事」の多くが、東京・渋谷の個人事務所「SAMURAI」のオフィスから生まれた。その室内は、余計な装飾が徹底して取り除かれている。すべてのインテリアを緻密な計算のもとに配置。テーブルの周りのイスとイスの間隔はミリ単位で正確にそろっている。来客が帰ったあと、ものさしで計測しながらズレを修正する。そこにこだわるのはなぜか。
僕の仕事において、いちばん重要なことにかかわってくるからです。それは、仕事の対象の本質をつかむこと。コアにあたる部分をつかむことが、もっとも正解に近づく早道。それは明確なカタチをなしていない、言語化されてもいない、イメージのようなもの。それをつかめなければロゴやスローガンなどをつくり出すことはできません。本質にたどりつくまで、無関係な枝葉をそぎ落とし、ひたすら突きつめていきます。
室内に余計な装飾や色が見えたり、インテリアの位置がズレていたり。そういう状態のオフィスでは、思考が乱れてしまう。本質を追究する邪魔になるんです。
でも、特別な「本質を突きつめて考える時間」をもうけているわけではありません。イスに深々と座って沈思黙考するようなプロセスを想像するかもしれませんが、はたから見ると普通に日常生活をしているように見えるでしょうね。でも、つねに頭のなかで本質を追究しています。それは、「考えている」というより「アンテナを立てている」という表現がしっくりきますね。
新しいプロジェクトが始まると、脳内に専用のスペースができて、そのチャンネルが常時開いている状態になります。その状態で、たとえばテレビで仕事に深く関連する業界のニュースが流れると聞き耳を立ててしまう。そうやって、つねになにかしら感じたり、考えたりしているうちに「これが本質ではないか」というのがじわじわとわかってきたり、「こういうことか」というひらめきがわいてきたり。「正解に近づいたな」と感じる瞬間は必ずありますね。
本質をつかむことで、さまざまなデザインをつくりあげてきた佐藤氏。東京・立川の「ふじようちえん」では中庭でも屋上でも屋内でも子どもが遊べるドーナッツ型の園舎をプロデュース。入園申し込みが殺到している。アイドルグループのプロモーションでは街灯や駐車しているクルマ、自販機とそこで買える飲料のボトルにいたるまで、キャンペーンビジュアルでラッピング。東京・渋谷の街全体をつかったプロモーションが話題に。このような、対象も表現方法も異なるプロジェクトで、現在進行中のものは30近くにのぼるという。常人ではとてもできないだろう。
そうでしょうか。いやむしろ、僕の仕事にとっては、多種多様な案件が複数、同時進行しているのはアドバンテージ。本質をつかむためには、多様な視点から対象を見つめることが重要だからです。
複数の仕事を同時並行で進めていると、「あの問題とこの問題の根っこは同じだ」とか、いまの世の中の動きの大局がつかめてくるんです。いわば、小高い丘から大きな流れを見るような感覚。時代の空気がつかめていれば、まるっきり的外れな方向に進まないかなと思っています。
むしろ、ひとつの対象だけをひたすらつきつめるほうが、リスクがある。いま世の中で起きている問題の多くは、「業界と社会との溝」に起因しているような気がします。特定の業界・特定の分野に所属する人の間でしか通じないコミュニケーションをしながら、「世間はわかってくれない」と嘆いているとか、そんなことが多くのシーンで起きている。その溝に橋をかけるのも、僕の仕事です。
僕にとっては、デザインの対象がユニクロのようなブランドのグローバル戦略だったり、「ふじようちえん」のように園舎だったり、今治タオルのような地場産業だったりしても、クリエイティブによって、クライアントと社会との溝に橋をかけていることは同じなんです。
既存の枠組みにとらわれない自由さと、本質を追究していく思考法。佐藤氏はいつ、どのようにそれらを身につけたのか。
それは、ものごころついたころからですね。小学生のときから自分の感性で「カッコいいもの」「カッコ悪いもの」を判断して、「その違いが生まれる秘密を知りたい」と思っていました。
たとえば流行にはまったく関係なく、あるスポーツ用品のブランドが好きになったんです。それで、学校で使う教科書とかノートをそのブランド製のものにしたくなって(笑)。表紙にそのブランドのロゴを一生懸命、コンパスとか分度器とか使って模写していましたね。
ファッションでも、ランドセルをアスファルトの路面で引きずって、ダメージテイスト風にして背負ったり(笑)。そんな趣味を共有できる友だちはいませんでしたけど、むしろ「他人と違っていたい、ユニークでありたい」という想いが強かった。「子どもだから、こうでなければいけない」「みんなと同じようにしなければいけない」。そんなことはまったく思わず、自分の好きなものをひたすら追いかけていました。
それはいまもまったく変わりません。「これは建築家の領域だ」「それはイベントプランナーの仕事」。そんな既存の枠組み・ジャンルは関係ない。誰もやったことのない新しい領域にどんどん挑戦していきたいですね。
ジャンルなんて関係ない。
誰もやっていない領域に挑みたい
プロフィール
1965年、東京都生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒。株式会社博報堂を経て、2000年にクリエイティブスタジオ「SAMURAI」設立。著書に『佐藤可士和の超整理術』(日本経済新聞社)、『一冊まるごと佐藤可士和』(阪急コミュニケーションズ)、『佐藤可士和の打ち合わせ』(ダイヤモンド社)、『聞き上手話し上手』(集英社)ほか多数。毎日デザイン賞、東京ADCグランプリ、亀倉雄策賞、朝日広告賞、日経広告賞、日本パッケージ大賞金賞ほか多数受賞。慶應義塾大学特別招聘教授、多摩美術大学客員教授、 東京アートディレクターズクラブ理事、 2016年度文化庁・文化交流使。
事業所概要
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