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株式会社ゴールデンマジック/感動設計室 主任 園田 玲花株式会社ゴールデンマジック/感動設計室 主任 園田 玲花

誰かの笑顔の理由になりたい。
どうすれば笑ってもらえるか、
毎日それだけを考えています。

「お客さま」と思わずに
「家族」だと思えばいいんです。
株式会社ゴールデンマジック
感動設計室 主任
園田 玲花

同じ料理を同じ価格で提供しても、接客スタッフの態度ひとつで来店客の満足度は変わってしまう。だから、どの飲食店も接客力の向上に力を入れている。そんな各社が「お手本」として注目する存在がいる。九州の地元料理や地酒を提供する『九州熱中屋』などを展開する飲食チェーン、ゴールデンマジックの店舗スタッフ、弱冠25歳の園田さんだ。あどけない笑顔にだまされてはいけない。新卒入社してわずか3年で、飲食店の接客スタッフ日本一を競う「S1サーバーグランプリ」で優勝。多くの来店客を笑顔にしてしまう「接客の女王」なのだ。


多くの一見客が、最初は「若いアルバイトか」と思う。
帰るときには「ソノちゃんに会いに、また来よう」と変わる。

入社以来、ずっと来店客の名前とそのお客との会話を記録する「お客さまノート」をつけている。さらには名刺をもらい、次に来店してくれたときに思い起こせるようにしている。これまで「どうすればお客さまを笑顔にできるのか」だけを考え、さまざまな工夫を重ねてきた。そんな園田さんならではの努力が、マニュアルを超えた感動を生み出している。

 そんなに特別なことでしょうか。「自分がお客さまだったら、店員さんから、こんなことをしてもらえるとうれしい」。私はただそれを実践しているだけなんです。

 「お客さまノート」をつけ始めたのも、やはり自分が「いちどだけ行ったお店の店員さんが、自分のことをおぼえていてくれたらうれしい」と思ったから。できれば、私のほうから「この前はお刺身を頼まれましたよね」とか「いつも通り最初はビールでいいですか?」なんて、声をかけたいと思っていました。

 でも毎日たくさんのお客さまがいらっしゃるので、せっかくまたご来店いただいても名前が思い出せないことも多くて。そこで、名刺をいただくことにしました。

 「『すみません!』ではなくて名前を呼んでほしいので」と最初にこちらから自己紹介。そのうえで「私もお名前でお呼びしたいので、よろしければお名前を教えていただけませんか」とお願いするのです。名刺交換できなくても、呼び名くらいであれば、たいていのお客さまが教えてくれます。

 最近は、さらに記憶をよみがえらせるのに便利な方法を発見しましたよ。会計伝票をとっておくんです。日付と時間、どんな料理・飲み物を注文したかはもちろん、どこのテーブルに何名さまで座っていたかも書かれているんですから。こんなすばらしいデータベースを捨ててしまうなんてもったいないです(笑)。

 伝票の情報と名刺、そして「お客さまノート」にまとめてある、どんな会話をしたのかの記録。これで、もう次の会話に困ることはありません。「お客さまノート」は、いま、5冊めになりました。ノートに載っているお客さまのお名前は、もう500名は超えています。

入社以来、ずっと来店客の名前とそのお客との会話を記録する「お客さまノート」をつけている。さらには名刺をもらい、次に来店してくれたときに思い起こせるようにしている。これまで「どうすればお客さまを笑顔にできるのか」だけを考え、さまざまな工夫を重ねてきた。そんな園田さんならではの努力が、マニュアルを超えた感動を生み出している。
伝票はお客さまの来店日時や人数、注文した品がわかる最強のデータベース。交換した名刺とともに保存
お客さまから声がかかると、すぐさま駆け寄る様子は「そそくさ」という表現がふさわしい。

店内では、担当するテーブルをくるくると回る。お酒を出したおりにオススメの料理を紹介したり、空いた皿を下げながら雑談を交わしたりする。テーブルから「ソノちゃーん!」と声がかかると、満面の笑顔で走り寄る。

 同じタイミングで2つのテーブルから声がかかったりすると、それがきっかけとなって、それまで見知らぬ同士だったお客さまの間でお話がはずんだりもする。そんなことが、とてもうれしい。私は、目の前にいるお客さまの笑顔の理由になりたいんです。「どうしたら笑顔になってもらえるか」をいつも考えています。

 ふだんはお客さまの様子を見ながら、あちこちのテーブルを回っています。お料理を出しながらちょっと声をかける。そのときに「苦手な食べ物はありますか?」ではなく「苦手な食べ物はなんですか?」のように、Yes、Noで答えられないような質問の仕方をすると、いろいろと話してくださいますね。自分があまり詳しくない分野の話題が出てきたら、素直に「教えてください」とお願いします。

 また、落ち着いて飲みたい様子のお客様であれば、無理に話しかけずに、そっとテーブルを片付けたりします。

 お客さまは料理を目当てに来店されるわけですが、同じ料理を食べるなら、スタッフが気持ちのよい対応をしてくれるお店のほうがいいですよね。「次は友達や恋人を連れてこよう」と思ってもらえるようなお店にしたいんです。

 そのために大切なのは、お客さまを「お客さま」と思わないこと。お客さまだと思うから、「お店の名物をオススメしなくては」、「高いお酒をオススメして売上を上げなくては」と余計なことを考えてしまうんですよ。でもお客さまを自分の家族だと思えば、相手の好みやお腹の空き具合を踏まえて、オススメするものも変わってきます。

 私にとっても、そのほうが、やりがいを感じられます。「今日のお昼はなにを食べたんですか」などと会話を重ねていくと、お客さまのことがどんどんわかってくる。「では、これをオススメしてみようかな」と自分で考えて、しかもそれをお客さまがとても喜んでくださる姿を目の前で見ることができる。マニュアル通りに決められたものをオススメするよりも、ずっと楽しく仕事ができるんです。

店内では、担当するテーブルをくるくると回る。お酒を出したおりにオススメの料理を紹介したり、空いた皿を下げながら雑談を交わしたりする。テーブルから「ソノちゃーん!」と声がかかると、満面の笑顔で走り寄る。
園田さん手書きの「お礼カード」をお客さまに渡す
一人ひとり違うカードの文言。園田流接客術はマニュアル対応の対極だ

園田さんが所属するゴールデンマジックは、ドラキュラ城の雰囲気が楽しめるレストランをはじめ、個性的な業態の店を多数展開することで知られるダイヤモンドダイニング(現:DDホールディングス)の系列。代表の山本氏はまだ30代。ダイヤモンドダイニングのアルバイトからたたき上げたこともあり、「現場重視・若手の積極登用」の経営で知られる。園田さんが若くして活躍できるのも、そんな経営方針あってのこと。しかし、「100店舗の出店」を当面の目標として、急成長の階段を駆け上がる同社が園田さんに期待することと、自分の志向とのギャップに悩んだ時期もあったという。

 入社1年目にある店舗の責任者をまかされて、マネジメント業務に挑戦したんです。飲食業界では「店長になりたい」「いつか独立したい」という人も多いのですが、私はあまり興味がなくて。もともと接客の仕事が好きでした。高校・大学の7年間、近所のお好み焼き屋さんでアルバイトをしていたくらいです。保育を勉強していたので、幼稚園の先生になることも考えましたが、アルバイトで毎日違う人とお会いできる飲食店の魅力を感じていたので、飲食業界に進みました。

 でも入社後、シフト管理やコストコントロールなどの店長業務をまかされたときは相当苦労しました。一時期、「自分はなんの役にも立てない」と本気で悩みました。でもそのとき、上司が「じゃあもう一度、お店で思い切りおもてなしを楽しんでみて」と声をかけてくれて、サービスの現場に戻ることに。これは本当に貴重な経験でしたね。

 私が思う存分お客さまとの時間を持てるのも、店長がしっかりとお店のマネジメントをしてくれるから。そのことに感謝して、私は私なりに貢献していこうと思うようになりました。

 だから、飲食店の接客スタッフが腕を競う「S1サーバーグランプリ」で優勝できたことはうれしかったですね。その前年も全国大会まで勝ち進んだのですが、最後に負けてしまって。「今度こそ」と思っていました。上司をはじめ、みなさんにたくさん応援してもらったので、優勝をもち帰ることができて本当によかったです。

園田さんが所属するゴールデンマジックは、ドラキュラ城の雰囲気が楽しめるレストランをはじめ、個性的な業態の店を多数展開することで知られるダイヤモンドダイニング(現:DDホールディングス)の系列。代表の山本氏はまだ30代。ダイヤモンドダイニングのアルバイトからたたき上げたこともあり、「現場重視・若手の積極登用」の経営で知られる。園田さんが若くして活躍できるのも、そんな経営方針あってのこと。しかし、「100店舗の出店」を当面の目標として、急成長の階段を駆け上がる同社が園田さんに期待することと、自分の志向とのギャップに悩んだ時期もあったという。
アルバイトを含む若手スタッフへ接客術を伝授。
研修講師としても受講者を「おもてなし」しようとする

現在は、店舗で接客に立つ一方で、「感動設計室 主任」として社内のおもてなし研修などを担当。接客スタッフの育成に携わる。飲食店での接客の仕事の楽しさを、より多くの人に伝えていきたいと夢は広がる。

 研修を考えるのは楽しいですよ。

 たとえば、「お客さまが来店されたときは、子犬のように駆け寄ってお出迎えしましょう」というカリキュラムを考案しました。これを、あえてサイレントで練習します。つまり「いらっしゃいませ」のような言葉に頼らず、表情と態度で歓迎の気持ちを伝えるわけです。この練習をすると、いままでと比べものにならないくらい“ウェルカム感”が高まります。

 また、「相手が食べたいものを自由にオススメしてください」というカリキュラム。当然、「いまお腹が空いていますか」「昨夜はなにを食べましたか」など、いろいろと質問して、聞き出すようになります。この練習を経たスタッフは、相手かまわず「今日はこれがオススメの料理です」なんていわなくなります。お店のメニューのなかで、相手に合ったオススメを提案できるようになります。

 アルバイトの方などは、必ずしも接客好きとは限りません。「近所でバイトしようと思ったら、たまたまこの店で募集していて…」という人もいます。でも、そんな方でも接客のおもしろさに気づくと、どんどん表情も明るくなり、仕事を楽しめるようになってくる。そんなふうに、会社全体におもてなしの文化を広めていきたいですね。

 そして飲食業界を見渡すと、まだまだ女性や若い人の活躍が少ないと感じています。その点で、私が「日本一のサーバー」になれたのは、ひとつのチャンスなんだと思うようになりました。私にできるのはお客さまを笑顔にすることだけですが、そんな私の姿を見て、「なんだか楽しそうに仕事しているな」「この仕事、おもしろそうだな」ともっと多くの人に思ってもらえたらうれしいです。

飲食店の接客は楽しい。
それを多くの人に知ってほしいですね。

園田 玲花(そのだ れいか)
園田 玲花(そのだ れいか)
園田 玲花(そのだ れいか)
プロフィール

1992年、熊本県生まれ。東京未来大学こども心理学部こども心理学科卒業後の2014年、株式会社ゴールデンマジックに入社。「九州熱中屋 上野LIVE」などを経て、現在、社内接客研修などを担当する感動設計室主任。2017年、第12回「S1サーバーグランプリ」全国大会優勝。